Elisa

「パチンコで負けちゃったよ」
「いくら?」
「5万」
「もうやめなって」

 恋をした。
「なんか負けてばっかだし、もうやめようかなぁ~と思ってんだよね」
「なにが?」
「パチンコさ。旅行とか行きたいとこあるし、音楽もやりたいしさ。まあ、やめないにしても、減らそうかなぁ~と思って」
「偉い!!」

 恋が実った。
「そういえば、パチンコってまだ行ってるの?」
「いや、それならおまえと一緒にどっか行ったり、うまいもん食いたいよねぇ~」
「じゃあ、もう全然行ってないの?」
「ああ、なんか勝てそうなときとか、付き合いで何回か行くぐらいかな」
「あれってそんなに勝てるもんなの?」
「う~ん……まあ、慣れてくれば負けなくはなるかな」
「ふ~ん」
「ちょっとこないだ勝ったんだけどさ、それで今度どっか行かない?」
「ホント? やったね。大好き!!」

 しばらく経った。
「パチンコって、そんなにおもしろいの? 友達もなんか最近けっこうハマッたって言ってたんだけど」
「勝ってるときはね。負けがこんでるときは意味もなくイライラしてくるけどね。それよりさ……」
「へぇ~」
「もしかして、興味持っちゃった?」
「う~ん……なんかたまにそのハマッてる友達とかからも誘われたりするから、ちょっとどういうものなのかなぁ~と思ってさ。でもそこまで勝てるものでもないんでしょ、パチンコって?」
「そりゃね。まあ、厳密に言うと、おれが行ってるのはスロットなんだけど、パチンコよりは勝てる確率は高いかな?」
「じゃあ今度、一緒に連れてってくれる?」
「マジで?」
「うん、ちょっとどんなものか見てみるだけだからさぁ~」
「じゃあ、1回だけね? OK?」
「ありがと。なんかごめんね、音楽やってるときにこんな話しちゃって」
「いや、いいって。同じ趣味できたじゃん? って、ハマっちゃ困るんだけどね」
「だいじょぶだって、ハマらないから。だって、わたしがやめさせたんだよ? なぁ~んてね」

 あるときケンカした。
「……どうせまた負けたんでしょ?」
「しょうがないじゃん。いっつも勝てるわけじゃないんだし」
「一緒に行ってるならまだしも、最近また一人で行くようになってるし……わたしと一緒に美味しいもの食べに行ったほうがいいって、あれ嘘?」
「なんでそうなんだよ。自分だって一緒に行くようになってんじゃん」
「それは、やっぱり同じ趣味持ってたほうがもっと一緒にいれるかなぁ~と思ったし、いっぱい話せるじゃない」
「じゃあなに? スロット始めたのって、おれのためだとか言いたいわけ?」
「いや……全部が全部そうじゃないけど……」
「頼んでないじゃん。それにおれ、もうホントにやめようと思ってたんだよ?」
「それは……ごめん。でも……」
「もういいって。じゃあ、やめるから」
「なんでそうなるの?」
「こういう小さいことでケンカするのヤなんだよね」
「なにそれ……もういいよ」


 恋をした。
 恋が実った。
 しばらく経って、あるときケンカした。
 女はしかるべきところで怒れなくなり、自分の言いたいことが言えなくなってく。
 男はそれすらわからなくなり、どんどんズレてく。

  • 2006年8月29日 22:25
  • 松田拓弥
  • Essay

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