ピアス

 こないだ、バイト先の便所で気づいた…

<ピアスが…な…ひ…>

 なんてこったい!?
 しかし、そこで俺は身震い…武者震い…悪寒…オカン…お母さぁぁぁぁん!!

 ものすごい喪失感…
 そりゃあもう、とんでもない喪失感の味わい…深い…深い…すごい…不快。

 たかが石コロだね。
 たかがピアスだね。
 たかがアクセだね。

 しかし俺は、そこで、鏡に映ったピアスのない左耳をつけた姿と見つめ合って、なぜか改信心したのです…

「せっかく親からもらった大切な体に…」

 オー・ノー!!
 オー・ジーサン!!
 オー・クリスチャン!!

 親からもらった体に、傷をつけたのです!!
 俺は…俺は…

 ………

 俺が俺であるために!!
 そうなんです!!
 親からもらった大切な体に己が傷をつけて、我が体に昇格させたのです!!
 親の体の一部から切り離したのです!!
 へその緒だって、もうない…生まれた時に産婆さんがきっと噛み切ったはずだ…
 小学校の夏休み、早朝ラジオ体操でマラソンがあって、そのときうしろのやつに押されてけっつまずいて道路に顔面の右側ひきずってかなり痛ぇ~…あぁイテェ~…
 親から授かった大事な大事な体は、その後俺がつけた傷でいっぱい…今は身も心も傷に覆われて、傷を身にまとってるようなもんだ…
 そうです。

 傷…
 それは…
 わが証。

 かのバーサンが言いました。
「人よりも多くを学び、人よりも多く傷を受け、生きる術を学ぶがよい…さすればやがて判るはずだ…おまえがこの世に生を受けた、本当の意味が…」
 まんまの受け売りだけど、これはかなりの名言だと思うのであります。

 そう、『傷』とは、その人がその人である証…刻印…印…道…タオ…ジュンタオ…すまん。

 無傷な人間ほど、弱いヤツはいない。
 傷の多いやつほど、強いやつはいない。
 無傷な人間ほど、傷を知らないやつはいない。
 傷の多いやつほど、傷を知ってるやつはいない。
 弱いから傷ができるんじゃない。傷がないから強いんじゃない。
 それは、優しさに大きな違いが出る……目に見えても、目に見えなくても。

 人間性を磨こうと思いつつも、俺はまたいつもと同じ俺のままで生きてゆくのであった…

  • 2006年7月 7日 00:55
  • 松田拓弥
  • Essay

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