いつもズボンのポケットに折り曲げたノートを突っ込んでいた時期があった。思いついたこととか感じたことを、いつでも書き留めておけるようにしていた。
でもある日、それをどっかに落として失くしたとき、なんとなく自分自身までもがカラッポになってしまったような感じがした。
でも、そんなカラッポも悪くなかった。
空の色を知っている。虹色に変化して、夜になると黒くなって、時には大きな空のなかでいろんな色に染まってる。
空に虹が架かる。
空が虹になる。
空が虹に架かる。
夜空に三日月。
細くてキレイで鋭くて。
それは空よりずっと小さく見えるのに、夜空がその先端にひっかかってるようにも見える。そんなときがある。
そしてそんな夜は、満月よりも美しい。
満月は、人の心を狂わすという。
たしかにそんな気がした日もあった。なんとなくワクワクしてきたり、吸い込まれそうになるぐらい目が釘付けになって夜を眺めたり、夜の闇にぽっかりとまん丸い淡い光の穴をあけたように見えたりした。
月を指先で隠してもそこから漏れる月明かり。
月の涙。月の雫。
銀色に光り輝く月明かり。
大昔の文明では、銀を“月の涙”といい、金を“太陽の汗”と呼んだらしい。
その響きを感じたとき、やっぱり銀のほうが好きだと思った。もっと言うなら、錆びた銀が一番好きだ。
金はまぶしすぎる。華やかすぎる。派手すぎる。目立ちすぎる。人の目にインパクトを与えすぎる。騒がしすぎる。そして、なんとなく品がないようにも感じられる。
だから銀が好きっていうわけでもないけど、なんとなく銀のほうが好きなんだと思ってみたりする。
そう、なんとなく銀の静寂みたいなものに惹かれる。
ポケットに突っ込んだノートを落としてみて、それに気づいた。
思ったことや感じたことを書き留めておけるのは、なにもノートだけじゃないってこと。
- 2006年7月 5日 10:58
- Essay